会社設立のこんな場合
受け取った代金の硬貨をろくに確かめずに、大急ぎで次の家に走る。
この時にうっかり小銭を落とすのだ。
私の家も牛乳屋の配達を利用しているので、こうした牛乳屋の様子はいつも見ている。
実際にお金を落とすところを目撃したわけではないが、私のこの推理は当たっていると思う。
ところで、シティでお金が落ちていても、意外に知らん顔をして通り過ぎる人が多い。
まあ、お札が落ちているなら別なのだろうが、落ちていることに気づいていても、五ペンスや十ペンスの小銭を拾う人はあまりいない。
金融マンの油券に関わるとでもいうのだろうか。
ある時、目の前に五ペンス硬貨が落ちていたので、「お、ラッキー」とばかりに私が拾ったら、一緒に歩いていた同僚から冷たい目で見られた。
しかし、私は平気だ。
どんなに小額でも、お金は大事にしなければならない。
いつの間にか、私の机の引出しは小銭で一杯になった。
硬貨が溜まり過ぎるのも困るので、私は時々郵便局に行き、自動販売機で切手を買うようにしている。
国内でもっともよく使う二十八ペンスの切手は、販売機に硬貨を入れれば買える。
しかし、販売機のつり銭がすぐになくなり、よく「EXACTCHANGE」のランプが点く。
これは、「おつりは出ないので、切手の金額通りのお金を投入してください」という意味だ。
まったく融通の利かない販売機だが、イギリスではよくあることである。
だが、小銭をたくさん持っている私は、こういう時に絶対困らないのである。
欧米人にとって、クリスマスは一年でもっとも重要な行事である。
最近はクリスマスカードが年々早く売り出される傾向にあり、十月になると、クリントンなどのカード専門店に、大量のクリスマスカードが並べられる。
私は、店頭で色とりどりのクリスマスカードを目にすると、「今年ももう終わりに近いなあ」という感慨と同時に、「今年も無事に越せそうだなあ」という安堵感を覚える。
後者については、少々説明が必要だ。
九○年、日本株式のセールスマンとしてシティで働き始めた私は、東京勤務の時と違って、思うように伸びない自分の営業成績に悩んでいた。
何度もいうように、成績があがらなければ解雇されても文句は言えない。
それが仮借のないシティの徒だ。
その当時、私の契約にはいわゆる「三ヶ月通告」条件がついていた。
つまり、自分から辞職する場合も、会社側が解雇する場合も、三ヶ月前に通告しなければならない、という条項だ。
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